岸壁に夜露死苦スプレー晩夏光  金田 青水

岸壁に夜露死苦スプレー晩夏光  金田 青水

『季のことば』

 歳時記を見ると、晩夏光は晩夏の傍題として載っている。晩夏は夏を三分した三番目。七月上旬から八月上旬のまだ暑い盛りにあたるが、空の色、雲の形、吹く風にそこはかとなく秋の気配を感じるようになる。従って晩夏光は夏の終わりのまだ強い日射しの中に、どこか衰えを感じている微妙なニュアンスの季語といえる。意識されるのは「終わり」であり、夏の日を惜しむ感傷が潜む。
 掲句は夏の終わりの海岸で、岸壁のスプレー文字にその感傷を重ねている。晩夏光を照り返す白い岸壁に、黒いスプレーで吹き付けられた「夜露死苦」の文字。夏の海岸の昼間の賑わいと、夜にたむろする暴走族のバイクの爆音。ひと夏の喧騒と冒険が終わり、過ぎ去っていく出来事のいろいろを思い返す。
 「夜露死苦」は1980年代に暴走族やヤンキーが使った「よろしく」の当て字。威圧感のある漢字を使って存在を主張するもので、岸壁やトンネルで落書きをよく見かけた。しかし暴走族は少子化と取り締まりの強化で最盛期の二割ほどに減り、集団を嫌って個人で走るケースが多いという。スプレー文字はいなくなった暴走族の残滓かもしれない。作者はそこに過ぎ去った自身の青春の思い出を重ね、夏の終わりを惜しんでいるのではなかろうか。
(迷 22.08.05.)

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