水澄める陶里に伝ふ飛び鉋    中村 迷哲

水澄める陶里に伝ふ飛び鉋    中村 迷哲

『この一句』

 「飛び鉋」は陶器の装飾技法のひとつ。木工用の鉋とは違い、鋼でできた先が曲がったヘラのような工具を、轆轤を回しながら上に乗った生乾きの皿や壺などの表面に当て、跳ね返りを利用してリズミカルな紋様を刻む。九州の小鹿田(おんた)焼、小石原焼、波佐見焼などが有名だ。中でも大分県の小鹿田焼はユニークだ。日田市から車で三十分ほどの四方を山に囲まれた小ぢんまりとした集落。小川の流れを利用した唐臼で陶土を搗き、全部で十軒足らずの窯元は世襲制で、技法は一子相伝。素焼きの乾燥や釉薬掛けなど作業はすべて家族総出で担う。それまで「日田もん」などと呼ばれていた陶器の良さを見抜いた柳宗悦が「小鹿田焼」という名称を広めたといわれ、今では重要無形文化財に指定されている。そんな陶器の里に秋が訪れ、澄んだ小川のほとりで熟練の技、飛び鉋が皿の上を跳ねている。爽やかな情景がありありと浮かび、なんと素敵な詠みっぷりだと、いの一番に花丸をつけた。
 きっと人気が高いだろうと想像していたが、蓋を開けてみると結果は、陶芸を趣味とする玄人裸足の光迷さんと私の二人だけしか採らなかった。九州出身の作者や私には小鹿田焼は馴染みがあるが、全国区というほど有名ではない。仕事で現地を訪れ、景色や空気感を肌で感じた経験のある私と違い、「飛び鉋」に何の感興も抱かなかったようだ。もし、この地を皆で吟行した後なら違った結果になったと思う。俳句には、ある程度共通認識がないと伝わりにくい側面があるのだと再認識した。
(双 21.10.08.)

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