時雨るるやむかし駅舎の在りし町  須藤光迷

時雨るるやむかし駅舎の在りし町  須藤光迷

『この一句』

 冬の季語である「時雨」を、上五に「しぐるるや」として置いた俳句はたくさんある。
  しぐるゝや黒木つむ家の窓明り    野澤 凡兆
  しぐるるや堀江の茶屋に客ひとり   芥川龍之介
  しぐるゝや目鼻もわかず火吹竹    川端 茅舎
 この他にも、正岡子規、種田山頭火など、少し調べただけでもいくつも出て来る。それなのに、筆者はこの句を読んですぐに安住敦の「しぐるゝや駅に西口東口」を想起した。ストレートに言えば「似てるな」と思った。それはおそらく中七に「駅舎」が出て来るからだろう。しかし、よく読んでみるとただそれだけの事である。類想の句ではなく、この句はまったく別の、独自の世界を切り取っている。
 作者によれば、この句の舞台は新潟県五泉市にある、廃線となった蒲原鉄道の駅らしい。ネットには往時の駅舎やホーム、車両などの写真や、現在の廃線跡の草むした写真などがたくさん掲載されている。ああ、この町に時雨が降ったのだなと想像すると、頭の中で「新日本紀行」のタイトル音楽が鳴り始めそうだ。
 冒頭の話に戻る。上五に「時雨るるや」と置かれたことで、一句は郷愁を感じさせる、とても味わいの深い句に仕上がっている。字面だけで「似てるな」と思ったことを今は恥じている。
(可 20.11.23.)

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