蟷螂を避けて自転車みぎひだり  斉藤 早苗

蟷螂を避けて自転車みぎひだり  斉藤 早苗

『この一句』

 一読、景がまざまざと浮かんだ。しかも静止画ではなく、動画として。例えば、コンビニの駐車場。買い物を終え自転車をこぎ出したとたん、目の前に蟷螂(かまきり)がいた。やばい!危うく踏みそうになって、おっとっと。バランスを崩しそうになって、ハンドルを右に左に……。というような情景だ。実に面白い場面を詠んだものだと、句会ではいの一番に選んだ。
 ところが、面白いもので受ける印象は人それぞれ。「みぎひだり」の意味がいま一つ分からない、という声があった。「普通、自転車に乗っていると下は見ないし、路上の蟷螂なんかに気付かない」との異論も出た。こぎ始めのスピードが出ていない自転車を想像した筆者と違い、走っている自転車をイメージしたようだ。では、実際に走っているとき、視線はどの辺にあるのだろうか。筆者は、自転車に乗って〝実況見分〟を試みた。視線の在りかを意識しながら乗ると、斜め前方の路上を見ながらペダルを踏んでいた。あまりスピードが出ていない普通の速度では、路上の蟷螂は充分目立ちそうだ。
 と、あれこれ句の写実性を強調してみたが、当てが外れた。作者によると実際は自分の経験ではなく、路上にいる蟷螂を潰されないように端に移動させようとしていた女性の姿からヒントを得た創作だという。それはそれで、実に巧みな詠み方ではないか。現に句会では共感する人が何人もいて、高点句となったのだから。
(双 20.11.19.)

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