井戸替やのぞき込む子の服掴み  向井 ゆり

井戸替やのぞき込む子の服掴み  向井 ゆり

『合評会から』(酔吟会)

三薬 私にもガキの頃井戸替えの作業を、びっくりしながら覗き込んでいた記憶があります。ホントに落ちそうで危なっかしい。服を掴んでくれた大人がいたか、記憶にはない。
道子 非日常にはしゃぐ子供と見守る大人。町内会の絆がうらやましい。
静舟 そんなに覗いたら危ないよ!子供は興味津々。親は冷や冷やで子の袖摑む。状況が面白い。
二堂 怖さ知らずの子供が井戸を覗き込んだのでしょう。危ないという思いがうまく出ています。
水兎 覗いてみたいですよね。私も現場に遭遇したら、絶対覗かせてもらいます。
      *         *         *
 「晒井」という兼題は馴染みがなく、筆者も初めて聞いた。傍題は「井戸替」、「井戸浚」。底に溜まった塵芥などの汚れを浚い、井戸を奇麗にし水の出を良くする作業だという。水道が普及する前は、夏の年中行事だったそうだが、今やめったにお目にかかることはない。句会では、身近に井戸があった頃の記憶を辿って作句した人が多かったようだ。
 作者も子供のころの記憶を探った一人。かつて実家にあった井戸、のぞき込む弟、その弟をしっかり掴む母親の手、と次々と記憶の焦点が定まって、掲句になったという。ついさっき見てきた光景をスケッチしたかのようなリアルな描写がとても魅力的だ。季語には、眠っていた昔の記憶を呼び覚ます効果もあるようで、難しい兼題にも拘わらず、堂々の一席に輝いた。
(双 20.08.03.)

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