おぼろ夜を骨折老人ぼっち酒  藤野 十三妹

おぼろ夜を骨折老人ぼっち酒  藤野 十三妹

『この一句』

 この作者の詠みっぷりには長年振り回されっぱなしである。「そういうデタラメな言葉遣いはいけません」と言うと、「真に申し訳ございません」と低頭しながら、また堂々と奇想天外な言葉を散りばめた句を寄せて来る。高度成長時代の新聞・テレビ華やかなりし頃、大手広告代理店のコピーライターとして活躍した女傑。「差し詰め日本語を壊した元凶の一人というわけだな」と言えば、「あはは」とコップ酒を呷っている。
 何しろ自分勝手な造語を無闇矢鱈に振り回すから、句意を汲み取るにはその造語の解釈から取りかからねばならない。大概は分からずにお手上げになる。
 この句はそうした中ではまともな方である。「ぼっち酒」という乱暴な言い方がこの句の眼目。一人ぼっちで酌む酒は、酒の良し悪しがよく分かる。含んで口中を転がしながら吟香を楽しみ、味わい、「これはいいなあ」などとつぶやく。その辺までは至極まともなのだが、「骨折老人」まで出すところが十三妹流。自らを徹底的に貶める自虐によって面白味を生み出す。これぞユーモア精神の真髄であり、俳諧である。足をちょっと挫いたくらいで身も世も無く大げさに歌い上げる。これがまたフアンを喜ばせる。
(水 20.05.05.)

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