あれ程の声が要るのか猫の恋    渡邉 信

あれ程の声が要るのか猫の恋    渡邉 信

『季のことば』

 犬は人間に飼われていると思っているが、猫は人間を飼っていると思っている、と聞いたことがある。アテになる話ではないが、放し飼の彼らには飼い主のことなど全く考えていない様子が確かに見えてくる。特に恋の時期になると人目も人の耳もはばからず、恥ずかしげもなく鳴き叫びまくる。その響きはもの凄く、本能の赴くままと言う他はない。
 酔ってうたた寝の作者は「猫の恋」の叫び合いに目を覚ました。初めは腹が立っていたが、遂には呆れ果てて「あれほどの声が要るのかね」と可笑しくなってきた。枕元から歳時記を取り出して目を通すと、「一匹の雌に数匹の牡が鳴き寄り」という記述があり、ライバルの存在に気付かされた。すさまじいあの声の源を思えば、同情心も湧いてくる。
 考えて見れば彼らは、ライオン、虎、豹などの同族を代表する「ネコ科」の一員なのだ。犬などとはいささか違うレベル、と言えるだろう。遥かな進化の旅の果に、人間に飼われているような状況に置かれているが、春を迎えれば、本能の赴くままも仕方のないところ。翌朝、奴は駐車場の車の上に寝そべり、一家の主人が出かけるのをジロリと見ていた。
(恂 20.03.23.)

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