取りあえず五体満足敗戦日     横井 定利

取りあえず五体満足敗戦日     横井 定利

『この一句』

 第二次世界大戦によって日本は、国民三百万人余りの命を失うなど言葉に尽せぬ甚大な被害を被った。この戦争を引き起した軍人・政治家の責任は永久に問われるべき、という大原則は絶対に動かせない。その上で、戦時からの日本を記憶している一人として、この句から生まれた思いを述べたい。
 敗戦からしばらく、手足や目などを失った傷痍軍人と呼ばれる人が道行く人に金を乞うていた。頭を下げ、地面に這いつくばる人もいた。赤紙一枚で戦場にかり出された人々である。我が家の近くにも戦災で負傷した人が何人もいた。広島で原爆に遭った隣の奥さんは蒼白い顔をして一日中、家の中にいた。
 東京の下町で生まれ育った作者は、私よりもっと厳しい戦災の現実を見てきたはずだ。戦後七十年余り、作者も私もとりあえず五体満足である。今日まで生き延びてきたのはまことに幸運だと思うが、心から喜ぶ気にはなれない。私にとって八月十五日は「敗戦日」であり、「終戦日」とは絶対に思わない。句に「敗戦日」と記した作者も、私と同じような気持ちを抱いておられるに違いない。(恂)

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