蛙鳴くふるさとありし帰りたし     片野 涸魚

蛙鳴くふるさとありし帰りたし     片野 涸魚

『この一句』

 調子のいい句である。口ずさんでみて特に流れのよさを感じた。しかし一句の意味を考えた時、「ふるさとありし」の「し」がちょっと気になった。「かつてあった故郷」ということになると思う。句の意はすなわち、すでに故郷とは言えなくなったが、懐かしいその地に帰ってみたい、ということになるのだろう。
 「細かいこと」とは思ったが、合評会の際、作者に訊ねてみたら、次のような答えが返ってきた。「福島には故郷に帰れない人がいっぱいいます」。そのことを思えば「ふるさとありし」と詠まざるを得なかった、という。作者は照れ気味に「ありし 帰りたし、と韻を踏んだこともありますが」と付け加えた。
 作者は福島県出身である。故郷は内陸部だから、東日本大震災の被害や原発事故の影響も、さほどではなかったはずだ。そこで最も言いたいことは心に留め置き、同県人としての気持ちをそっと表したのだと推察する。この句から「フクシマ」は想像できないが、「それでよし」とするのも、作句の心なのだろう。(恂)

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