石一つドナウの始まり滴りぬ   水口 弥生

石一つドナウの始まり滴りぬ   水口 弥生

『この一句』

 ヨーロッパを代表する大河の一つドナウは南ドイツの森林シュヴァルツヴァルトに発する。いくつもの小流れが集まり、ドナウエッシンゲンという森に囲まれたお伽の国のような町を流れるブレク川になり、大理石像などあしらった由緒ありげな泉が「これぞ源泉」ということになっている。大正時代、ウイーン留学時にここを訪れた歌人斎藤茂吉は故郷の最上川と重ね合わせて大感激したのだろう、「大き河ドナウの遠きみなもとを尋めつつぞ来て谷の夕ぐれ」と詠んだ。
 しかし、ドナウ源流点というのは数カ所あって、正確にここがそうだということは決められないようだ。昔、私が住んでいたプラハからウイーンに至る街道の尾根筋にも「ヨーロッパ分水嶺」というのがあって、「ここよりドナウ、ライン、ブルタバ(エルベ)流れ下る」と刻んだ石碑が立っていた。
 さて、この句の石は果たしてどこか。どこでもいい。黒々とした石が滴りに光っている。この一滴が悠久のドナウとなって延々三千キロ、黒海にそそぎ込むのだ。「これぞ滴り」というところを詠んでくれたものだと思う。(水)

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