網戸新調夕べの風を待ちにけり     山口 斗詩子

網戸新調夕べの風を待ちにけり      山口 斗詩子

『この一句』

なにか新しいものを手にするとわくわくする。たとえばその昔、初めてレコードプレーヤーを買ってもらった時、わくわくしてたった一枚のシングル盤を繰り返し聴いていた。
 この作者が手に入れたものは新しい網戸である。けっして初めてのものではない。それでも新調したことでわくわくする思いはあり、早く日が暮れて風が吹いてくれないかなと待ち望む。若い頃に手に入れた初物のもたらすわくわく感とは異なり、作者が新調された網戸から得たわくわく感には、老境の枯れた趣があるような気がする。いずれにせよ、日々の暮らしの中のささやかな幸せである。
この句は、上五が字余りになるのを恐れず、「網戸新調」と漢字四文字できっぱり言い切ってしまったところが素晴らしいと思った。そのことのもたらすある種の潔さが、後に続く「夕べの風を待ちにけり」の静謐な心境を引き立てているように思えた。うまく表現できないが、「網戸新調」のティンパニーの後に、「夕べの風を待ちにけり」の弦楽合奏を聴くような気分で読んだ。(可)

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