風やわらか慣らし保育の涙跡     向井 ゆり

風やわらか慣らし保育の涙跡  向井 ゆり

『季のことば』

 「慣らし保育」とは保育園の入園前に、団体生活に慣れるため一週間ほど体験通園をすることで、お試し保育という園もある。
 育児休業制度が整ってきたとはいえ、働くママはあまり長くは休めず、一歳や二歳になってから保育園に通う子供は多い。それまで父母の庇護に包まれて育った子が、いきなり集団に放り込まれる訳で、ショックは大きい。
 朝、ママと分かれる時に泣き、玩具を取り合っては泣き、迎えが遅いと泣く。涙の乾く間がない。新しい環境に奮闘する園児の涙の残る頬を、春風が励ますように優しくなでて行く。しかし泣いてばかりの子も、一週間もすると園での生活に慣れ、涙も次第に乾いて「涙跡」となってくる。
 「風やわらか」という季語はあまり例句を見ないが、歳時記によっては「風光る」の傍題として掲げている。春風駘蕩という言葉があるように、暖かく優しく吹く風のイメージであろう。「風やはらか」と旧かなにすればさらに春らしさが漂う。今後定着させたい季語のひとつであり、子供の成長を見守る親心を春風に託した掲句は、格好の作例となろう。 (迷)

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