地の起伏あらはにみせて野火走る 玉田 春陽子
『季のことば』
草の芽生えを促すと共に病害虫駆除のために、田畑や野原、家畜を放牧する丘などの枯草を焼く「野焼」の火が「野火」。早春の季語である。首都圏では三月に箱根仙石原で行われる薄原の野焼が豪勢だ。めらめらと立ち上がる炎の走る景色を眺めると、原始時代の人間になったかのように、血が騒ぐ。
しかし、昨今は地方の中小都市まで都会化が進み、野焼・野火を見る機会がずいぶん減ってしまった。大都市近郊の農村で野焼きすると、119番通報されたりすることがあるという。煙が迷惑だと言うのである。元来、人が住むべきではない所まで開発してしまったのに、野火の煙に難癖をつけるのは噴飯ものだが、まあこれも時代の趨勢であろうか。
この句は昔ながらの豪勢な野焼風景である。枯草は一旦燃え上がると物凄い勢いで広がって行く。「野焼の様子をよく十七文字に盛り込んだなぁと感心します。『地の起伏』に沿って野火が走るというのが実にいい」(白山)という句評を始め、句会では最高点を集める人気だった。野火が焼き尽くした真っ黒な地肌は、それまで隠れていた丘の起伏が鮮やかに浮き上がる。(水)
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