回廊へ日の射し込める淑気かな 大下 綾子
『季のことば』
「淑気」(しゅくき)とは、俳句か短歌を詠む人以外にはほとんど馴染みの無い言葉であろう。年が明けて四辺がなんとなく明るく改まった感じ、「清清しい空気の中にみなぎる瑞祥」といったところであろうか。「そんな、呪文みたいなこと言って、いいカッコしなくてもいいよ」と中学生の孫に茶化されてしまうかも知れない。要するに「お正月らしい気分」のことである。
とにかく、なんとも畏まった感じの季語なので、これを用いて句を作るのは難しい。だからだんだんと敬遠されるようになって、近ごろあまり見かけなくなった。その内に絶滅季語になってしまうかも知れない。しかし、一年に一遍、お正月くらい、こういう畏まった気持になって句作するのも悪くない。
この句は、「淑気」という季語の本意をとてもよく表していると感心した。初詣の社殿。回廊があるというから由緒ある神社だろう。参道には大きな神木が繁っているかも知れない。玉砂利を踏んで神前に向かうと、回廊に初日が射し込んでいる。まさに淑気を感ずる格調高い句だ。(水)
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