無精髭飽きずに撫でて風邪の床 植村 博明
『おかめはちもく』
熱が出ていたり、頭ががんがん痛かったりの風邪の最高潮の時は、ただただ蒲団を引き被って寝ている。実際、何をする気も起こらない。
困るのは治りかけの頃だ。ぶり返しては厄介だからと床には入っているが、本を読んでも無理な姿勢だからすぐに疲れてしまう。テレビはどの局も判をついたように馬鹿げたバラエティ番組の垂れ流しで見る気にならない。この句はそういった風邪籠りの無聊を詠んで、とても面白い。
ただ「飽きずに撫でて」がどうかなあと思う。本当は無精髭を撫でることにも飽き飽きしているのではないか。退屈で退屈でたまらない。やることが無くて、ついまた無精髭を撫でているのではなかろうか。作者は「飽きずに撫でて」と詠むことによって、実際は飽き飽きしている状態であることを察してもらおうという心づもりなのかも知れない。そうであれば「無精髭撫づるほか無き風邪の床」であろうか。ただこれはちょっと直截的で言い過ぎという感じもする。やはり、
無精髭また撫でている風邪の床
と、さりげなく詠んだ方が、この気分がよく伝わって来るようだ。(水)
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