トンネルに葡萄酒眠る小春かな 水口 弥生
『合評会から』(日経俳句会)
而云 いかにも「小春」という句だ。ワインは温度の変わらない所に置いておくといい。うまいところを見つけた。
木葉 今、廃トンネルにチーズとか生ハムとか置いて熟成させるのがはやっている。そのトンネルにワインを置くという、気持のよい句だ。
万歩 酒の貯蔵に廃トンネルを利用することがあるそうだ。「小春」と「葡萄酒眠る」が心地よく響き合う。
操 廃線となったトンネルに葡萄酒を貯蔵。小春日和に浮かぶロマン。
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ワイン産地の山梨や長野は元々は養蚕地で、蚕の種紙(産卵紙)を保存するのに自然の洞穴やトンネルを掘っていた。養蚕が廃れてからはそれらはワイン、日本酒、野菜などの貯蔵庫になった。今ではJRが不採算路線を切り捨てる合理化で無用になったトンネルを貸し出すようになり、トンネル貯蔵庫が脚光を浴びている。面白いところに目を付けたものだ。作者によればテレビで見たという。テレビでの句材捜しとはこれまた面白い。(水)
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