口衝くはふるさとの歌詞鴨来る 和泉田 守
『季のことば』
「鴨」と言えば冬の季語とされているが、「鴨渡る」「鴨来る(かもきたる)」となると、歳時記では「初鴨」という季語とともに秋に組み入れられている。東北地方では早い年には8月末から9月初めに鴨が渡って来る。俳人は総じて初物好きだから、人より少しでも早く詠もうというせっかちな人が多いのだ。
しかしまあ鴨の季感といえばどうしたって冬である。キーンと冷えた12月の朝方、靄の上がる湖沼や内湾を忙しげに動き回る鴨の群れ、それを眺める人たちの息も白い。そんな景色がまず浮かんで来る。
この句の「ふるさとの歌詞」というのは、あの有名な小学唱歌「兎追し彼の山小鮒釣りし彼の川・・」(高野辰之)であろう。
北朝鮮による日本人拉致事件の被害者家族を支援する人たちが開く集会では、必ずこの歌が歌われるという。鴨が通り過ぎて来る半島は今や厳冬。無法に連れ去られた人たちは一体どうしているのだろう。日本へ渡ってゆく鴨たちを眺めて、もう涙も涸れ果てているのではなかろうか。(水)
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