木枯らしや一族郎党連れ去りぬ     野田 冷峰

木枯らしや一族郎党連れ去りぬ     野田 冷峰

『おかめはちもく』

 「挙家離村」という言葉がある。一家そろって村を離れるということだが、この句の場合は、家長を初めその係累がことごとく姿を消してしまったのだ。農村から都会への人口流動の勢いから見れば、当然あり得ることで、人気の絶えた山村に木枯しが吹き抜ける情景は身に沁みる以外の何物でもない。
 ただし句の作り方にはちょっと問題がある。中七と下五は、木枯しが一族郎党を連れ去った、と受け取れるのだが、切字の「や」がそれを許さず、一族が“何者かに”連れ去られた、となってしまうのだ。そこで解決法の一つを提案したい。「や」を生かし、下五の「連れ去りぬ」を変えたらどうだろう。
 ある山村に木枯らしが吹きすさぶ。その地域に住んでいた一族が次々に郷里を出て、ついに一人もいなくなってしまった、という感慨を詠めば、「や」の問題は解決するはずである。即ち『木枯しや一族郎党散り散りに』で、どうだろうか。実は私にも思い当たる一族があり、人ごとと思えなかった。(恂)

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