足の甲こそこそ擦る夜寒かな 大平 睦子
『この一句』
実に面白いことを詠んだなあと感心した。それなのに句会では採らなかった。「こそこそ」にちょっと違和感を抱いたからである。オノマトペというものは、ワンワン、ニャアニャア、ぴょんぴょんなど、一般に定着しているものは別として、すこぶる主観的な表現である。
この句の足の甲を擦る「こそこそ」もそうである。作者には「こそこそ」なのだろうが、ある読者に言わせれば「かさこそ」かも知れないし、「すりすり」の方がいいと言う人もあるかも知れない。
私の場合はどうかなあと自問した。晩秋から冬の深夜、寝入りばなの冷たい足をこすり合わせることをしょっちゅうやっているので、この句には共感を持つ。ただ私の場合はもう少し荒っぽくて、「ごしごし」かなあと思う。オノマトペはこのように十人十色である。
それよりも、この句はオノマトペは用いずに、「足の甲しきりに擦る夜寒かな」とした方がすんなり納まるかなあと思ったりもする。まあそれはともかく、夜寒の感じを実にうまく表したものである。(水)
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