その中に水路貫徹山粧ふ 鈴木 好夫
『この一句』
これは琵琶湖疎水を詠んだものであろう。明治21年、大津から京都まで山並を縫って運河が貫通した。南禅寺の境内を突っ切る赤レンガ造りの水路橋によって蹴上まで運ばれてきた琵琶湖の水が急傾斜を一気に流れ下る。それを利用して日本最初の水力発電所が生まれ、市電が走った。
南禅寺には「水路閣」という堂々たるアーチ型の水道橋があり、境内から背後の東山連峰の木々に囲まれて独特の雰囲気を醸し出している。新緑の頃には赤レンガと緑のコントラスト、晩秋には紅葉黄葉とのハーモニー。とにかく素晴らしい情景である。
この句は「その中に」という上五によって少々気取った感じを与える。色づき始めた山を貫いて「その中に」特異な水道橋が通っている、ということを強調するための措辞であろう。高浜虚子には「その中にちいさき神や壷菫」(明9)、「其中に境垣あり冬木立」(昭14)があり、「かっこいい」というので現代俳句でしばしば用いられるようになった。
こうした小手先細工は概ね失敗に終わるのだが、この句は「水路貫徹」という硬質な言葉が置かれたことで救われ、シャンとした。(水)
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