跳ね太鼓釣瓶落としの秋の暮れ     工藤 静舟

跳ね太鼓釣瓶落としの秋の暮れ     工藤 静舟

『おかめはちもく』

 「釣瓶落とし」とは深い井戸の底に釣瓶を落とすように、真っ直ぐ素早く落ちて行く形容で、秋の夕日が見る見る落ちて行く様を言う決まり文句である。「平家物語」にも出て来るから、もう八百年も昔から使われてきた言葉である。
 常套文句を使う利点は、誰にもすぐ分かってもらえることである。句の中にぴたっと嵌まれば非常な力を発揮する。読者に違和感を抱かせることなく納まり、わざとらしさやいやらしさが無ければ大成功である。
 この句は秋場所の打出し後の両国界隈の雰囲気を表して、とてもいい。隅田川に夕靄がかかり、両国橋から西を眺めれば茜色の夕空、東の本所方面にはぽちぽちと呑屋の灯りも見え初める。テンテンバラバラ、ステテンテンテン、パラパラパラパラ、ステテンテンテン・・・、「初日二日目の今頃はまだ昼間の続きの塩梅だったのに、ずいぶん日が短くなりましたなあ」などという会話が聞こえる。
 しかし、やはり「釣瓶落としの」と来て「秋」は安易である。思い切って変えた方がいい。「釣瓶落としの秋の暮れ」を自分の言葉に置き換えればいいのだ。「跳ね太鼓背(せな)に早足秋の暮れ」なども一例。(水)

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