朝霧の盆地をうづめ湖と化す     井上 庄一郎

朝霧の盆地をうづめ湖と化す     井上 庄一郎

『合評会から』(日経俳句会)

三代 盆地に霧がかかっているのを「湖と化す」と言ったのがうまいと思った。
阿猿 「湖」の表現が素敵だ。アニメの「君の名は」の情景を思い出した。
明男 兵庫県の竹田城を思い浮かべた。朝霧が一面を埋め尽くしている様は、確かに「霧の湖」の感じがする。下五の「湖と化す」が上手だ。
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 「霧の湖(うみ)」という表現は昔からあるのだが、このように真っ正面からすぱっとうたわれると新鮮な感じになる。それは作者が目の当たりにした印象をそのまま五・七・五に置き換えたからに他ならない。
 江戸時代からこの方、日本人が詠んだ俳句は一体どれほどになろうか。多分、億の位になるだろう。そこに詠まれた情景には当然、同じようなものが沢山あるだろう。いわゆる「類句」の山である。そうした山の中からひょこりと顔を出し、人々の共感を呼ぶのは並大抵ではない。一頭地を抜く秘訣などはあり得ないのだが、強いて言えば、この句のように自分の目で見て感じて、自分の言葉で言うことであろう。(水)

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