秋いまや巻雲高き八ヶ岳     今泉 而云

秋いまや巻雲高き八ヶ岳      今泉 而云 

『この一句』

 実に気持の良い句である。真っ青に晴れ上がった空に八ヶ岳が聳えている。その上には薄絹のような巻雲が棚引く。句会では「あぁ八ヶ岳に来たんだなぁという実感」(木葉)、「秋らしい素敵な句だと思いました」(双歩)、「まさに『天高し』が思い浮かぶ。景の大きい句ですね」(春陽子)と上々の評価を得た。
 すると作者は笑みを浮かべて、「昨日まで長野の伊那に行っていました。この句は、きっとこんな風景が見えるだろうと作って置いたんですが・・。見えましたよ」と正直に舞台裏を語って、会場は爆笑に包まれた。
 こういうのを「孕み句」という。俳諧(連句)の席では即座に句を詠まねばならない。いつまでも唸っていたのでは一座をシラケさせてしまう。そのため、参会者は前以て当たり障りの無い句をいくつか用意して置く。それが孕み句で、今日でも吟行などでは前以て現地事情を調べて何句か作って置く人が結構いる。
 しかし、孕み句はどうしても感動の薄いものになりがちだ。その点、この句は出色である。それは作者が八ヶ岳周辺の四季を知り尽くし、その景色と雰囲気を日ごろから腹一杯に孕んでいるからこそ月並みを脱したのである。(水)

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