新涼や両手重ねて臍の上      植村 博明

新涼や両手重ねて臍の上      植村 博明
 
 『この一句』

 つい先頃までは猛暑に圧倒され、家に帰ればまずエアコンを点け、「参った」と呟き、ごろりと横になっていた。夏も終わりに近づいた頃、ようやく本来の昼寝を取り戻すようになっている。午後のひと時、作者は昼寝に入ろうとしている、と私は受け取った。ともかく天井を見上げての大の字だ。
 気持ちよくぐっすり眠ることを「うまい」と言う。漢字では「熟寝」のほか「旨寝」とも書くから、その気分は「美味しい寝心地」と言っていい。ただし「ゴロリ」だけで最高の気分が得られるわけではない。例えば作者は、仰向けになった後、ゆっくりと瞼を閉じ、「両手重ねて臍の上」となるのだ。
 寝ている人の「臍の上」は「臍の周辺」と言い換えてもよく、両の手の置かれた辺りには漢方で言う「臍下丹田」も含まれているはずだ。この周辺はリラックスの要所とされ、作者の一連の動きは会心の眠りに入るまでのルーチンワークなのだろう。満足そうな表情が目の前に浮かんでくる。(恂)

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