新涼や父母なき家に風通る 岩田 三代
『この一句』
想像すれば「父母なき家」は、作者の居住地から離れた戸建ての家なのだろう。作者が生まれ育った家で、ご両親は亡くなられ、住む人はいない。作者は年に何度か、例えばお盆の頃などに訪れ、家の掃除などを行っているのだろう。以下も筆者の想像によって書いて行くことにする。
故郷の家はいつまでも子供たちの心の拠り所なのだが、親亡き後はその管理が子供の負担になりがちだ。どんな建物でも歳月とともに老朽化し、管理や補修の費用がかさんでくる。句の家はとりあえず心配なさそうだが、いつの間にか埃がたまり、空気も澱んでいるはずだ。
家に入って作者は「さて」と腕まくり。まずカーテンや雨戸、窓を開けて風を通さなければならない。南側の窓を開き、襖も、北側の窓も開ける。仏壇を綺麗にし、花と線香を供え、ほっと一息。心の中で父母と会話していると、心地よい風が通り抜けて行く。新涼の風であった。(恂)
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