青大将梁から落ち来目の前に 井上 庄一郎
『季のことば』
春に休眠から覚めた蛇は夏場には伴侶探しと体力増強のための獲物捜しで活発に動き回る。当然人目にもつくようになり、夏の季語になった。
マムシやハブなど毒蛇は怖いが、その他の蛇は大人しく、悪さをしない。むしろ鼠を補食してくれるので、昔は農家や蔵を持つ商家などは青大将が住み着くと「家が栄える」と喜んだ。作者の生家は埼玉の由緒ある旧家と聞く。大きな土蔵か昔風の土間のある台所か、頭上には長年燻され黒光りした太い梁が通っている。そこから突然、青大将がバサッと落ちて来た。さぞかしびっくりしただろう。蛇の方だってびっくりしたに違いない。折角、鼠を追い詰めて呑み込んだ瞬間、ガラリと戸が開いて人間が入ってきた。慌ててバランスを崩して転落したのだろう。あるいは、大きな獲物を呑み込んだ蛇はわざと高い所から身投げして、腹の中で動いているのを衝撃死させるという話を聞いた事もあるから、もしかしたらそんな場面かも知れない。
ともあれ、今や都会では家鼠が居なくなり、青大将もさっぱり見なくなってしまった。古き良きのんびりした時代を懐かしむ句であろう。(水)
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