木下闇うねる気根の口深し     大熊 万歩

木下闇うねる気根の口深し     大熊 万歩

『この一句』

 これは奄美大島や沖縄、あるいは東南アジアの景色を詠んだものではなかろうか。パプアニューギニアや南太平洋の島々の感じもする。熱帯の鬱蒼と茂った森のガジュマルなどの大木、気根が垂れ下がり、地上に盛り上がり、複雑怪奇にうねっている。気根と気根の隙間は洞穴の入口のようになっており、奥は真っ暗で何か潜んでいるような感じだ。もわっとした熱帯雨林の其処だけにひんやりした空気が流れている。
 大きく太い気根にまたがって、木下闇に憩うと、あの世に吸い込まれていきそうな気分になる。「うねる気根の口深し」という措辞が、分からない人にはさっぱり分からないという弱味があるが、不思議な力を持った句だ。
 もしかしたら、私のこの読み方は全くの見当外れかも知れない。しかし、どうしてもポール・ゴーギャンのタヒチの作品、アンリ・ルソーの空想上の熱帯の楽園、そして田中一村の奄美などが頭に浮かんで来るのだ。その三人の有名作品には気根が口を開けているような構図は見当たらないのだが、何となく、こういう絵をみたことがあるなあと思ってしまう。(水)

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