富士の峰青さいや増し更衣     和泉田 守

富士の峰青さいや増し更衣     和泉田 守

『この一句』

  更衣の季節のさわやかな気分が伝わって来るいい句だなあと思った。
 「富士の峰」を文字通り解釈すれば富士山の頂上ということになり、「万年雪を頂いて白く輝いているのではないか」と理屈をこねる人が出てくるかもしれない。しかしこの句の「峰」は山頂だけを意味するのではなく、富士山そのもの、さらにはその周辺をも含めてのものであろう。たとえば富士の麓の河口湖町には「富士ヶ嶺高原」という見晴らしの良い公園があって、初夏の頃も、薄が靡く晩秋も実に美しい富士の峰の全貌を仰ぐことができる。
 富士山は四季折々、また日によって、天候によって、その色合いは千変万化する。この句の「青さいや増し」の「青」はどんな色合いだろうか。読者それぞれいろいろな「青さ」を思い描くに違いない。私は初夏の丁度昼頃、遠くもなくあまり近くもない、例えば十国峠からでもいい、籠坂峠あたりでもいい、雄大な富士山が紫がかった青黒い肌を見せている光景を思い浮かべた。足元や周囲は青葉若葉の新鮮な緑の海。その向こうに青さいや増した富士が聳えている。胸一杯に深呼吸。これで寿命は確実に一年は延びたに違いない。(水)

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