黄ばみ見ゆ思ひ出深し夏衣 大平 睦子
『季のことば』
「夏衣(なつごろも)」とは単衣、絽、上布、麻衣、帷子といった夏の和服の総称だが、現代俳句では夏物の洋服をも含めて詠まれる。作者によると、これは夏物のブラウスとのことであった。
老人の私は疑うことなく和服ととった。母親から譲り受けた越後上布か何かを、衣替えが近づいて箪笥から取り出してみたら、うっすらと黄ばみが浮かんでいた。大事にしてきたつもりなんだけど、やはり年月がたつとこうなってしまうのか。と、思いやりながら、この着物にまつわる数々の思い出を手繰り寄せている。なんとも趣き深い、優雅な句ではないかと感心した。
もちろん夏用のブラウスだって十分成り立つ。シルクシフォンやレースをあしらった逸品だ。夏物はどうしても汗を吸っているから、入念にクリーニングしてもらっても年月を経れば黄ばみやシミが浮いて来る。しかし、愛着を持つ衣服には、長年の思い出が詰まっている。「黄ばみ」こそが値打ちと言ってもいいくらいなのである。(水)
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