公魚を公魚のまま揚げてをり     向井 ゆり

公魚を公魚のまま揚げてをり     向井 ゆり

『この一句』

 とても面白い句だ。天麩羅にしてもフライにしても公魚はまさにこうなのである。公魚を公魚のまま揚げるとは、なんとも意表を衝いた詠み方だ。
 稚鮎も豆鰺も姿のまま揚げるが、やはり公魚が、こう詠まれてみると一番よく似合うようだ。鯊(はぜ)も釣りたてを天麩羅にするが、小さいくせに骨が意外に硬いから、頭も取り去って開きにして揚げるのが普通だ。これに対して公魚は将軍への献上品ということから「公」の字がついたくらい上品な魚で、身も骨も柔らかい。下手に捌くとぐちゃぐちゃになってしまいかねない。というわけで公魚は必ず姿揚げということになったのではなかろうか。
 公魚は霞ヶ浦、山中湖、諏訪湖、野尻湖、北海道・網走湖、陸奥小川原湖、宍道湖など全国各地の湖沼で取れる。大昔は海の魚で、鮎やシシャモ(これらと親類関係にある)と同じように産卵のために川や湖に遡上していたのが、いつの間にか淡水に棲み着くようになった。淡白な味で、釣り上げたらすぐに開いて刺身で食べるのが美味いのだが、湖沼の水質汚染であまりお奨めではない。やはり、衣をうっすら付けて「公魚のまま」揚げた天ぷらが一番旨い。(水)

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