春告げる風を掴まん赤子の手 髙橋 ヲブラダ
『この一句』
春を告げる風と言うと、菅原道真の「東風吹かば匂ひをこせよ梅の花」で有名な東風ということになる。シベリア高気圧が日本列島を蔽う西高東低の冬型気圧配置がゆるみ、東あるいは東南の風が吹いて来ると寒気がやわらぎ、春の気配が漂い始める。
しかし、梅の花をほころばす東風はまだ早春の風でかなり冷たい。本格的な春は三月に入り、日本海を低気圧が北上し、そこへ向かって南からの暖かい風が吹き込むようになってからである。さらにそれと交替に移動性高気圧が本州をすっぽり蔽うと上々の天気となり、まるで初夏のような陽気になる。桜をはじめあらゆる花を咲かせる春風である。
この句は冒頭に「春告げる」とあるから、立春頃の句かとも思う。しかし、元気な赤ん坊が春風を掴もうとでもするように腕を伸ばし、小さな手のひらを精一杯開いたというところからすると、本当の春が来た三月中下旬が似つかわしいようだ。誰もが好む愛くるしい赤ちゃんを添えるなど、「ずるいなぁ」と言いたくなるが、とにかく明るくて元気が出る句である。(水)
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