一人酒夢か現か雪深々   小泉 基靖

一人酒夢か現か雪深々   小泉 基靖

『おかめはちもく』

 作者は三四郎句会に入会したばかりで、句作りは初めてとのこと。さてこの句、三月の初句会に向けて「雪」を詠んでみた。先日の春の大雪の頃である。夜、一人酒をやっていて、ふと気づけば雪が降り積もっていた、というのだ。しかし季節は春。句会で時期遅れの句はまずい。やはり「春の雪」としてもらいたかった。
 もう一つ指摘したいのが中七の「夢か現(うつつ)か」。この慣用句を用いたことで、却ってリアルさが薄れている。「現」にはいくつかの意味があるが、辞書によると日常では普通、体験し得ないような精神状況だ。それを逆に利用し「一人酒現か春の雪深々」くらいにすれば、却って現実味が生れたのではないか。
 作者は柔道六段、ホノルルマラソンを完走、次は「トライアスロンに挑戦したい」と語るスポーツマンである。俳句の世界ではかなり珍しいタイプに属するだろう。初体験の句会では俳句に関する新聞の切り抜きを持ち込むなど、大いに意欲を見せていた。柔道体験者の多い三四郎句会中、異色の存在となるか。(恂)

この記事へのコメント