鎌倉のうら山けさも百千鳥 印南 進
『季のことば』
一読、盛唐期の詩人・孟浩然の絶句「春眠暁を覚えず 処処に啼鳥を聞く」が浮かんでくる。春の一夜をぐっすり眠った。目覚めたらもう明るく、夜明けを知らなかった。気づけば周囲から鳥の鳴き声聞こえてくる、というのだ。鎌倉に住む作者もこの朝はゆっくり目覚め、にぎやかな鳥の声を聞いていたのだろう。
ここで「百千鳥(ももちどり)」という季語の力に気付く。孟浩然の「処処に啼鳥を聞く」を僅か三字で言い切り、さらに群鳥の混声合唱までを言い表している。ただしその一方で、中国人が何千年にもわたって作り上げてきた詩の作り方も認識しなければならない。孟浩然の詩「春暁」は次のように続いていく。
「夜来風雨の声 花落つるを知る多少」。目覚めた人は「そういうえば」と、夜中の風雨を思い出したのだ。「今朝はたくさんの花が散っているだろう」。四行詩・絶句の構成はご存知の「起承転結」で、後半の二行が「転」と「結」にあたる。俳句の「取合せ」の持つ意外性は、絶句からの流れにあるのかも知れない。(恂)
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