幻や花の根もとの手負武者 高瀬 大虫
『この一句』
日経俳句会、番町喜楽会で仲良く詠み合い、酌み交わしてきた大虫さんが17日に心臓疾患のため死去、21日、埼玉県桶川の名刹五大山興願寺明星院で葬儀が行われた。
この句は平成20年4月、句友連れ立ち八王子の多摩森林科学園桜保存林を吟行した時の作である。日本全国から集められた桜が今を盛りと咲き競っていた。しかし、ここはその昔、後北条氏の武者たちが、攻めて来た武田勢と激戦を繰り広げた古戦場であり、秀吉の小田原攻めの際にも戦いがあった場所でもある。大虫さんは戦国の世に思いを馳せ、桜樹の下には死体が埋まっているという俚諺を踏まえて、華やかさには衰亡がつきまとうと詠んだのであろう。
60年安保に熱血をそそぎ、挫折した大虫さんは、終生弱い者、敗れた者の側に立つ姿勢を貫いた。決して大声を上げることはなく、笑みを絶やさない人だったが、常に影を背負い、花の下の手負武者という雰囲気があった。
時ならぬ春雪に見舞われた菩提寺境内の大榧を見上げながら、10年前のうららかな花見吟行で「この人にしてこの句あり」と感じたことを思い出す。(水)
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