ご飯だとメールで呼ばれ冬の月    植村 博明

ご飯だとメールで呼ばれ冬の月    植村 博明

『この一句』
 夕方、「ご飯ですよ~」という母の声が聞こえたのは、昭和三十年代辺りまでだろうか。懐かしいあの声はどこかへ消えて行ったが、この句によって「メール」という手段に代わっていることを知らされた。ところでこの母親、どこから子供にメールを入れたのだろうか。自宅からではなさそうである。
 メールを送るのは、自分の言葉を相手に勝手に伝えること、と言えるだろう。電話と違って会話を交わす必要がない。送り手は送った瞬間から自由に行動が出来るから、忙しい場合は特に便利である。母親は勤めに出ているのだと思う。退社後、電車に乗って自宅近くの駅に着いた頃かも知れない。
 まだホッとする時間ではない。まずスーパーに寄って夕飯のおかずを買い…。寒い夕方である。子供はコンビニか書店にでもいたのだろうか。母が何時何分頃、駅に着き、どの道を通り、どの店に寄ってくるのか知っている。頃合いを見て家に向かう。前方に帰りを急ぐ母の後ろ姿が。空には冬の月。(恂)

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