誘はれて谷中寺町帰り花     久保田 操

誘はれて谷中寺町帰り花     久保田 操

『季のことば』

 「帰り花」は旧暦十月、今の暦で言うと十一月から十二月初め頃の季語である。ものみな枯れ果ててしまった中に、桜、桃、ツツジ、山吹などが、突然二三輪の花を咲かすことがある。これが「帰り花」で、俳人たちは喜んで句に仕立てた。
 ちょうどこの時期には寒い日が数日続いた後に、春のようなぽかぽか陽気になることがある。これを「小春」とか「小春日和」と言う。「帰り花」は、この陽気に誘われて咲き出すのかも知れない。春の本格的な花と違って地味な咲き方だが、自然界に色彩の薄れた頃合いだから、その可憐さは人目を惹く。
 「谷中散歩の雰囲気が良く出ていて、しみじみとします」(百子)。「リズム感が心地よい。季語が生き生きとしています」(弥生)と句会で人気を集めた。
 この「誘はれて」というのが面白い。友達に散歩に誘われたと解するのが自然なのだろうが、私はこの句を反芻しているうちに、作者は「小春日和」に誘い出されたのではないかと思うようになった。人通りの途切れた昼下がり、温みを感じる谷中の小路にひっそりと帰り花が。それを見つけた嬉しさは一入だ。(水)

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