六月は薄い長袖にて外へ     井上 庄一郎

六月は薄い長袖にて外へ     井上庄一郎

『季のことば』

 六月は急に暑くなったかと思えば、妙に肌寒くなったりする、気候がまことに落ち着かない月である。月の前半は初夏らしい陽気が続き、気持良く晴れ上がる。こうなると日中は半袖がいいのだが、朝晩はかなりひんやりする。後半は梅雨に入り、降ったり止んだり、じめじめした天気が続く。しかし、数日降り続いた後はお日様が顔を出し、いわゆる「五月晴れ」となる。
 というわけだから、六月の外出は「薄い長袖」に限るのだ。と、ただそれだけを述べた句である。それなのに、読み返しているうちに、何とも愉快な心持になってくる。「六月は」で一呼吸置き、「薄い長袖にて外へ」と開放感をうたい、不思議なリズムも感じられる。
 雨上がりを待ちかねての外出だろうか。ともあれ「六月」という実に難しい季語をとても上手に詠んだものよと感じ入った。このように、何でもないようにすっと詠んで季節感を言い尽くすのは、やはり年輪の積み重ねがもたらすものではなかろうか。作者は当年卒寿。(水)

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