ぼうふらに運動不足なかりけり     横井 定利

ぼうふらに運動不足なかりけり     横井 定利

『季のことば』

 夏の声を聞くや、池や川の澱み、どぶ、人家の水溜りなどに、いつの間にか湧き出すぼうふら。落葉やゴミ、昆虫の死骸など腐敗した有機物を餌に、卵から孵ってわずか一週間でサナギになり、数日で脱皮し、成虫の蚊になる。蚊はすぐに交尾し、産卵のために栄養を蓄えようと人でも犬でも猫でも何でも、動物の血を吸う。そしてほんの少しの水たまりがあれば直ぐに産卵、たちまちそれが孵ってボウフラになり・・・。
 しかし、ぼうふらは見て居ると実に面白い。「棒振り」とも言うように、水面近くに垂直に立ち、一日中身体をくねくねさせている。漢字で書くと「孑孑」。これも水中でくねくねやっているのを観察した古代人が考え出した字に違いない。こいつが憎らしい蚊になるのかとは思えない、ユーモラスな恰好だ。
 この句の作者も閑人らしい。ぼうふらを見て感心している。クネクネ、クネクネ・・・、水槽の縁を叩くと一斉に沈んで見えなくなり、しばらくすると二匹、三匹、十匹、二十匹・・・後は勘定できないほど上がって来て、また、クネクネ、クネクネ・・。確かにメタボのぼうふらはいないね。(水)

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