夏来たる散歩に歌ふ祖父と孫 田村 豊生
『この一句』
俳句に「孫」は禁物だと言う。句会では「孫」の一字を見ただけで、その句は選ばない、という俳人もいるそうだ。孫可愛さの余り、祖父や祖母自身が目を細めるような句を作ってしまうからである。「“孫俳句”のどこが悪い」と力んだ友人が自作を見て、「やっぱり脇が甘いなぁ」と語っていたのを思い出す。
この句はしかし、祖父と孫との関係を客観的に描いている。作者が日課のウォーキングに励んでいたら、祖父と孫と思しき二人が何か歌を歌いながら元気よく歩いていた、というような状況が考えられよう。老幼コンビはとても仲がよさそうで、いかにも初夏の朝に相応しい光景だが・・・。ここまで考えて、ふと気付いた。
句の作者は、もしかしたら祖父ご本人なのではあるまいか。「孫俳句」への苦言は、もはや俳句の常識である。そこで作者は孫との様子を客観視したように見せかけたのかも知れない。老獪な作戦とも言えるが、作品そのものはすっきりと出来上がり、孫へのデレデレ感は明らかに薄れている。私もこの手で行くか、と考えた。(恂)
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