カモのひな一羽ずつ減る池の謎 片野 涸魚
『おかめはちもく』
これは実に不可思議な話で、まさにミステリー。作者の散歩コースにある池のカモが雛を孵した。とても可愛いから、近隣の大評判になって、大勢で見守っている。もちろん作者も毎朝それを見るのを楽しみにしている。
ところが、その雛が一羽ずつ減っていく。あんなに元気にしていたのだから、病死というわけはあるまい。誰かが一羽ずつ盗んで行くとも思えない。「鴉に取られたのではないか」「いや大鯉に吞まれたんだ」「亀に喰われたに違いない」と、いろいろな噂が飛び交うのだが、いずれも現場を見た人は居らず、謎のままなのだという。句会ではこの句を巡ってひとしきり話に花が咲いた。
とても面白い句なのだが、この句には季語が無い。というより、鴨は夏前に北方大陸へ帰ってしまうから、動物園ではいざ知らず、野生の鴨が日本で雛を生み育てることはないのだ。従って「鴨の雛」という季語は存在しない。ただ一種類、渡りをせず一年中日本に居る軽鴨(かるがも)がいる。これは夏に雛が孵り、「軽鴨の子(かるのこ)」という夏の季語になっている。この句もぜひそれを使って欲しい。
軽鴨の子(かるのこ)の一羽づつ減る池の謎 (水)
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