手分けして家族七人蓬餅 廣上 正市
『季のことば』
餅は節季ごとに拵えては神仏に供え、家族揃って食べる、日本古来なじみの食物である。正月の雑煮餅に始まって鏡餅、鶯餅、椿餅、草餅、雛祭りの菱餅、桜餅、柏餅・・と年中何らかの餅がある。そうした中でも、草餅、蓬餅の季節感は飛び切りだ。「いよいよ春だ」という喜びがほとばしり出る感じである。
この餅を作るために、まず蓬を摘む。川原の土手を吹き行く風はまだ冷たいが、家族揃って蓬摘みをするのはとても楽しい。採って来た蓬はお婆ちゃんやお母さん、姉さんが手分けして掃除して熱湯で湯がく。真っ青に茹で上がった蓬をトントンと包丁で刻む。一方、蒸篭には練った上新粉(米粉)が蒸し上がる。大きなこね鉢か臼に蒸し上げた餅と蓬を入れて、擂り粉木でつんつん搗き混ぜ、こね上げる。目にも鮮やかな緑色の餅が出来上がる。これをピンポン球くらいに取って伸ばし、小豆餡を包み、香り豊かな蓬餅の完成。
親子孫合わせて七人家族ともなれば、蓬餅を作るのも食べるのも、さぞかし賑やかなことだろう。元気で、ほのぼのとした一家団欒風景が浮かび上がる。(水)
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