風光る塵一つ無き平林寺 堤 てる夫
『この一句』
埼玉県新座市野火止にある臨済宗の古刹平林寺。武蔵野の姿を今に留める境内の雑木林は国の天然記念物になっている。三代将軍徳川家光の小姓から老中にまで上り詰め、川越藩主になった松平信綱がこの寺を菩提寺とするように遺言し、岩槻からこの地に移されたという。信綱が開削した野火止用水が近くを流れ、秋の紅葉が最も有名だが、春夏秋冬いずれも豊かな自然が満喫できる。
東京ドームが十個も入るような広大な境内は、掃除が行き届いているのだろう、ゴミが全く見当たらない。さりとて、ことさら掃除をしましたという風情でもなく、観光客向けの余計な飾り付けや、今出来の石像などが並べられたりしていないのも気持が良い。
なんだか寺の説明が長くなってしまったが、要するにこの句はこうした独特の雰囲気と味わいを持つ古刹のたたずまいを上手く詠んでいるということを伝えたかったのである。「塵一つ無き」でそれを遺憾なく表し、また「風光る」という季語がぴたりと嵌まって光っている。(水)
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