浅春や鯉の尾動く神田川     植村 博明

浅春や鯉の尾動く神田川     植村 博明

『この一句』

 三鷹市の井の頭池から流れ出し、中野区、新宿区、豊島区、文京区、千代田区を通って台東・中央・隅田三区の境界の両国橋袂で隅田川に流れ込む神田川。全長二十五キロ、暗渠部分が無く、すべて川面が見える、大都市を流れる川としては極めて珍しい存在だ。昔はこの川が江戸っ子を育てていたのだ。それだけに人々にこよなく愛され、俳句にも数多く詠まれてきた。
 高度成長期には沿岸の飲食店や家庭排水などが流れ込み、どぶ川と化して悪臭を放っていた。その後、各所に下水処理場が出来て排水が直接流れ込まないようになり、徐々に水質が改善、今では鮎が遡上するまでになっている。かなり汚れた水でも生きて行ける鯉にとっては、今の神田川のように適当な栄養素が流れ込み、プランクトン豊富な「中程度の汚染」が一番合っているのかも知れない。時々、これが鯉かというような巨大なヤツが悠然としているのを見る。
 大きな鯉がゆっくりと尾びれを動かしている。早春の淡い日射しが川面を照らす。都心に居ることを一瞬忘れてしまうような静けさである。「都会の静寂」を写した感じの良い句だ。(水)

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