春浅し金星の下に細き月     大平 睦子

春浅し金星の下に細き月     大平 睦子

『この一句』

 金星の下に細い月――。いかにも「春浅し」の趣を持つ句である。この句を見て、私も見たい、と思い立った。月なんていつでも見られる、と踏んでいたのだが、すぐに容易でないことが分かった。月と太陽の動きは全然違うのだ。夜空を見上げれば月が出ている、なんて飛んだ思い違いだった。
 ならば、とパソコンを開いた。国立天文台の情報があり、北海道から沖縄までの各地の日の出と日の入り、月の出と月の入りの時間などが一覧表になっている。よし、これで万全、と見当を付けた日は曇りだった。その翌日、つまり三月一日、東京は何と雨になってしまったのだ。
 数日後のある句会の兼題に「朧(おぼろ)」が出ていた。私はすでに「朧月」の句を作っていたのだが、実際の朧月を見たわけではない。それどころかこの数年の春夏秋冬、「月」の句をたくさん詠んでいるが、すべて頭の中で作っていた。お月様は「私をよく見よ」と怒っているようである。(恂)

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