春浅し空に溶け入る遠景色     水口 弥生

春浅し空に溶け入る遠景色     水口 弥生

『おかめはちもく』

 春の情景を印象的に詠んでいる。季語から言ってこれは早春の句なのだが、暖かい感じがする。多分昼頃なのであろう。気温がかなり高くなって、目には見えないが水蒸気が立ち昇り、いわゆる「霞立つ」状態になっているのだ。
 こうなると遠くの景色は薄ぼんやりとして、空と渾然一体となる。「空に溶け入る遠景色」とは実に上手い。天明調俳諧の味である。
 ところがこの句は、句会ではほとんど話題にならなかった。何故か。やはり「季語が合わない」と思った人が多かったからではないか。つまり、遠景色がぼうっと霞んで空に溶け込むようになるのは、「春浅き」よりもっと後の時期というわけだ。
 しかし、近ごろは寒の最中に二十一度などというバカ陽気が訪れる。「春浅し」の頃にこうした景色になっても何ら不思議ではなくなった。そうであるならば、三春通じて使える季語を据えたらいかがであろう。

  春昼や空に溶け入る遠景色   弥生       (水)

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