飛梅や転勤辞令唐突に     直井 正

飛梅や転勤辞令唐突に     直井 正

『この一句』

 言うまでも無く菅原道真の故事を踏まえた一句である。中級貴族の出である道真は類い希なる学識と才覚の持主だった。藤原氏の勢いを抑えたい宇多天皇は道真を重用した。道真もそれによく応え、天皇の権力回復、中央集権体制づくりに邁進した。宇多天皇の子の醍醐天皇の世になっても道真はさらに出世し、家柄からは到底なれるはずのない右大臣に昇進、時の権力者左大臣藤原時平に肩を並べるほどになった。しかし、余りにも急速にのし上がってきた道真に危機感を抱いた時平は、「道真は貴方を廃し、弟君である娘婿の斉世親王を皇位につけようと企んでいますよ」と讒言、これにより道真は太宰府に流されてしまった。
 無念やるかたない道真は「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花主なしとて春を忘るな」と詠んで九州へ下った。すると梅の木が後を追って飛んで来て花咲いた。これが「飛梅伝説」である。
 「転勤」と「飛梅」は付き過ぎの感じがあるが、思ってもみなかった赴任先を提示されたら、きっとこうした思いを抱くに違いない。サラリーマン人生の哀歓を巧みに詠んだ。(水)

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