雪睨む伍長の像や八甲田     谷川 水馬

雪睨む伍長の像や八甲田     谷川 水馬

『この一句』

一九〇二年、青森八甲田山中で起きた雪中行軍の悲劇を今に伝える像を詠んでいる。ロシア軍との交戦を想定しての演習などとされるが、豪雪のため行軍に参加した二一〇人中、一九九人が死亡という悲劇に終わった。像の主は雪中に立ち尽くしたまま、仮死状態で救出された後藤房之助伍長である。
兼題の「雪」を詠むのにあの像をもってきたか、とある種の感動を催した。ただしこの事件は百十五年前のこと。映画「八甲田山」(高倉健ら主演)が大きな話題を呼んだのは、ちょうど四十年前だった。今では八甲田死の行軍を知る人は少なくなったはずで、句の評価も人によって違っていいただろう。
 私は実物の像や、映画を観ていたので、この句を見た時はドキリとした。八甲田へ行ったのは秋の頃で、もちろん雪はなかった。しかし辺りの風景を思い返すと、雪があったような気がしてくるのが不思議だ。伍長は完全に雪に埋もれていたとか、雪から顔が出て目が動いていた、などと言われている。(恂)

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