ぼた雪の薄汚さや優しさや 中嶋 阿猿
『この一句』
実に愉快な詠み方が気に入った。「ぼた雪」とは牡丹雪と同じで、たっぷりと水分を含んだ大粒の雪。初冬や晩冬の気温が割に高い時に降る雪で、もともとは東北、北陸の日本海側の地方の言葉らしいが、今では全国的に使われている。東京近辺で昔から言われてきた「牡丹雪」という気取った言い方とは違って、いかにもぼたぼた降り積もる感じが伝わって来る。
この句はそんな「ぼた雪」の様子を極めて主観的に断じた。「薄汚い」けれども「優しい」と言うのである。確かに、踏むとキシキシいう厳冬の粉雪が潔さを感じさせるのと異なり、こちらはだらしなくべちょべちょ崩れてしまう。
「雪なら雪らしく、もっとしっかりしなさいよ」と言いながら、でもこのふわふわと、何とも頼り無く、寄りかかって来るようなところが憎めないのよねえ、なんて呟いている大姐御が浮かんで来る句だ。
申年もあと三日でおしまい。寒い寒いと言ってもやはり暖冬傾向は続いており、年が明ければ東京も何度かぼた雪に見舞われることだろう。(水)
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