葱下げて背広姿で急ぎ足     田村 豊生

葱下げて背広姿で急ぎ足     田村 豊生

『おかめはちもく』

 上五を見て「葱買(う)て枯木の中を帰りけり」(蕪村)を思ったが、両句で重なるのは「葱」の一字だけだった。「背広姿」の句から浮かぶのは、典型的な現代サラリーマンの姿である。男性はダークスーツにネクタイを締めているのだろう。独身か、単身赴任か、奥さんが病気なのかも知れない。
 いい句だと思う。しかし「背広姿で」の「で」が気になった。俳句を長くやっておられる方なら、大半が私と同じように、「で」を問題視するのではないだろうか。ならばどう直したらいいのか。答えはもちろん簡単。以下のように、「で」を「の」に替えるだけでいい。「葱下げて背広姿の急ぎ足」(添削例)
 俳句はたったの十七音だから、一字の響きが一句全体に関わってくる。滑らかな口調を重視し、「が」「で」「ば」など濁音の助詞の使用は避けるべきだろう。作者は八十歳前後から俳句を始めて、経験はまだ浅い。素晴らしいセンスを持っておられるのだが、この句の場合は細かい所まで注意が及んでいなかった。(恂)

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