傷つきし鹿伝説の湯に浸かる     嵐田 双歩

傷つきし鹿伝説の湯に浸かる       嵐田 双歩

『この一句』

 動物が在り処を教えてくれたという伝説の温泉は全国各地にある。この句のように「鹿」が教えてくれたものには、その名も鹿教湯温泉(かげゆ・長野)はじめ、酸ヶ湯(青森)、浅虫(同)、那須(栃木)など数多い。鹿は日本中にいて昔から人間に馴染みが深かった証拠であろう。この鹿温泉はどこだろう。伝説の雰囲気を未だに残しているような、鄙びた山の温泉の感じが漂う、とてもいい雰囲気の句である。
 長い人生を送ってくれば、身体にも外傷や手術痕の一つや二つあるだろう。それよりももっと深い心の傷だってあるかも知れない。少しぬるめの温泉にゆっくり浸かって、心身共に癒されるのだ。
 このままでも十分通用するのだが、何度か読み直すうちに、「傷いやす鹿伝説の湯に浸かる」の方がいいのではないかと思うようになった。さらに「鹿伝説の湯では季語にならないのではないか」という疑問がぶつけられるかも知れないことにも思い至った。これは難しいところだが、「傷いやす鹿」で、恋の闘争の後の鹿が思い浮かび、秋の趣が伝わるのではないかと納得した。(水)

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